1899年の暮れに始まった国際緯度観測では、6等星から7等星の比較的に暗い星を用いてきました。それは一般に暗い星は遠くにあり、地球から見える 見かけの動きが小さく、地球の動きを正確に決めるには適していたからです。遠く暗いという意味で、1、2等星のように派手さはありませんが、宇宙の方向を示す基準という重要な役割が与えられていたわけです。
星を測る望遠鏡にも工夫が凝らされ、対物レンズや鏡筒や回転部の傾斜変化測定のためのレベルにも当時の最高の技術によるものが用いられました。また測定の心臓部にあたる接眼部のマイクロメーターにもこうした技術が用いられたことは言うまでもありません。
ここで意外なのは、そのマイクロメーターの中に星の位置を測る基準として、自然に生息するクモから採った糸が用いられていたことではないでしょうか。小さな星に合わせて、その位置を測れる細くて丈夫なものはクモの糸以外になかったということです。驚きです。このクモ糸は、コシロカネグモというクモの卵のうからとったもので、細心の注意でクモ糸を引き出し、よりを伸ばし、マイクロメーターの金枠に張って固定します。一度張ると数年は持ちましたが、不具合が生じるとその技術を持った者が調整したのでした。木村榮博士のZ項もこうした技術のサポートと観測の積み重ねがあって生まれたものでした。
奥州宇宙遊学館には、このマイクロメーターを体験するコーナー(展示室「星」)があります。宮沢賢治の詩「晴天恣意」にも、クモ線と星のことが描かれており、この測定の当時の大事さが伝えられています。